第9話　

　私はまるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。こんなに簡単なことだったの？

　それなら、どうして今まで教えてくれなかったの？

　彼は私の疑問を感じ取ったようで、「信じられないのか？今メディアで報道されている彼女との婚約の話も嘘なんだ」と言った。

　私は彼の言葉を遮った。「嘘よ。あの日、病床で彼女のお父さんに、亡くなった後も彼女をちゃんと世話すると約束したじゃない」

　彼は一瞬、目を輝かせて言った。「優花、あの日、見に来てくれたんだろ？」

　まったく、この人はいつも本当に大事なことを聞き逃す。

　少し恥ずかしくなり、私は背を向けて小さな声で言った。「杏奈に会った後、一度だけ見に来た。でも、まさかそんな場面を目にするなんて思わなかった」

　渡辺直熙は私の前に来て、言った。「彼女の面倒を見るって言ったのは、困った時にお金を貸すことや、彼氏を紹介することだ。結婚しなければならないってわけじゃないだろう？」

　私は顔を上げ、彼を見つめた。「あなた......」

　「何？優花、まさかずっと私が田中清音を好きだと思っていたのか？俺がずっと好きだったのは君だよ」

　私はついに、日記に書いていた疑問の答えを得た。しかし、思っていたような喜びは感じられなかった。

　多分、長い間苦しみ続けてきたからだろう。

　渡辺直熙、もしあなたが本当にずっと私を好きだったのなら、私がこの数年味わった苦しみは何だったの？

　公の場で手を繋ぐことさえできず、近くに寄ることもできなかった。私たちの関係は一度も公にされなかった。

　結婚式どころか、こっそり撮った結婚写真さえもタイムラインに投稿できなかった。

　胸の中は悔しさでいっぱいで、涙がこぼれ落ちた。

　渡辺直熙は私の涙を拭おうとしたが、彼の手は私の体をすり抜けた。

　「優花、俺が悪かった。本当にごめん。君が俺のスヌーカーの試合姿にずっと憧れていたのは分かってる。俺が出場停止になり、スヌーカーを諦める決意をした時、君が俺に失望するんじゃないかと思って、家に帰るのが怖かったんだ」

　妊娠していた頃を思い出すと、胸が締め付けられるような痛みが広がった。

　私は地面にしゃがみ込み、頭を抱えて言った。「お願い、もう言わないで。もう過去のことだし、私はもう死んでる。今さら意味なんてない」

　それでも彼は頑なに続けようとした